北風、太陽 新しい音/水町綜助
 

 朝に
 食パンが腐るように消えた


  朝
  未だ朝

 電車にゆられながら
 口をぱくぱくと動かす
 なにかしらをつぶやいている記憶は
 もうかつて読まれたはずの頁
 そこにつらなる風化したインキの足跡
 各駅停車の扉が開く毎に
 小石混じりの光の粒が
 靴先に蹴られた水たまりのように広がり
 濡らす
 「冷たい」
 と驚くように
 「まぶしい」とつぶやき
 口をぱくぱくと動かす
 停車する毎にそれをして
 頁を繰(く)り続ける
 しおりを挟む機を逃しながら


  月島
  三番出口

 風
 って
 息も止まるくら
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