北風、太陽 新しい音/水町綜助
た
朝に
食パンが腐るように消えた
朝
未だ朝
電車にゆられながら
口をぱくぱくと動かす
なにかしらをつぶやいている記憶は
もうかつて読まれたはずの頁
そこにつらなる風化したインキの足跡
各駅停車の扉が開く毎に
小石混じりの光の粒が
靴先に蹴られた水たまりのように広がり
濡らす
「冷たい」
と驚くように
「まぶしい」とつぶやき
口をぱくぱくと動かす
停車する毎にそれをして
頁を繰(く)り続ける
しおりを挟む機を逃しながら
月島
三番出口
風
って
息も止まるくら
[次のページ]
戻る 編 削 Point(12)