まよなか/Utakata
 
じ込められた白い檻の中で
満たしてくれるものがそこにはないことをそれ自身も既に知っている
なにかは誰にも聞こえない声でひくく唸る
飢えだけが夜と同じ速度でゆっくりとそれの中に溜まっていく



まよなか
老人の影がいつものようにそこに現れると
動物園の中がいっせいに眠りから目覚める
鉄柵越しに鼻面を擦り付ける彼らに
老人の影はそっと指先を触れる
瞬間に動物たちの魂が身体から解き放たれ
鉄柵をすり抜けて空の中に遊ぶ
一匹の駝鳥が首を伸ばしてそれをじっと見つめる
老人の影がゆっくりとそれぞれの檻を歩き回るにつれ
動物園の空中が少しずつ魂で満たされていく
老人の影は最後
[次のページ]
戻る   Point(4)