こと・きり/クリ
しまったのだ
袖から静かに先生が出てきて新しい糸に張り始めたけれど、もちろんすぐに替えられるわけではないし
演奏の邪魔にならないように調弦することも非常に難しかった
姉が改めて爪をはめ直したときには曲はほとんど終わっていた
姉は、家に帰ってから泣いた
僕もまだ子供だったので慰め方が分からなかった
今でもまだ分からない
僕は嘘をついた
ほら、大丈夫、張り替えたよ
姉は戸惑いながらも、混濁する意識の中で少し笑った
5時のチャイムが遠くに聞こえているときに彼女は目を開けた
「ありがとう」と言った。意識が戻ったのかと思ったがそうではなかった
僕が真上から顔を覗き込んだときにはも
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