こと・きり/クリ
 
はもはや姉の瞼は溶けるように閉じられていた
でも彼女の最後の言葉が僕に、僕たちのためであったなら神に感謝する

姉の元配偶者は結局、病室に来ることはないままになってしまった
そんなものだ
それより、僕は嘘をついたのだ
姉はもう一度ちゃんと演奏したかったんだ、切れない糸で、もう一度最初から
やり直したかったんだ
でも自分ではどうにもできずに僕の名を呼んだんだ
僕は嘘をついた

両親が姉を誉め、妹がボロボロ泣き、当直の医師と看護士がテキパキと処置していく
僕は明るくなり始めた窓のカーテンを少しだけ開けて外を見た
いつもの朝になるはずの光と緑が目に染みた
家の庭はそれほど広く
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