批評祭参加作品■食い違う夢 −『私たちの欠落(夏の日の)』藤丘 我流読解−/大村 浩一
 

#埋もれてしまったいつかの夏に
#栞を置いたままかもしれない
#それでも私たちは真実を口にしない
#私たちの日常には触れ合うことを拒む痛みがある

 この冒頭第1連と第2連で、この詩が扱おうとするテーマは明らかにされて
いる。夫婦あるいはそれに近い間柄のふたりの、それぞれが抱えて生きる秘密。
 読解にあたっては「あなた」は配偶者ではなく、親や兄弟、あるいは会社を
呼び変えたものかもしれない、と仮定してみるが。「明日の湿度」と「いつか
の夏」いう表現が、その仮定を覆す。「湿度」の隠喩からは生体的・性的な要
求が窺われ、それをお互いに依存しあう関係とは、互いの存在そのものを相手
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