足りないもの/小川 葉
 
おじいさんが 
ランドセルを背負って 
元気に登校していく 
おじいさんは 
まだ三時間目なのに 
給食を食べる 
お父さんは 
車輪のない自転車で 
道なき道を 
どこまでも走っていく 
お母さんは 
潰れてしまった喫茶店の前で
店が開くのを
もう何年も待っている 
おばあさんは 
線路沿いに捨てられた 
悲しい欠片ばかり拾い集める 
集めたものを仏壇にお供えして 
今はこんなに豊かです 
掌を合わせて呟く 
僕は部屋の片隅で 
生まれる予定のない弟に 
勉強を教えながら 
足りないものを数えている 
窓の外を
牛の親子が通り過ぎてい
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