スケッチ/みつべえ
 
の山容を私は好んだ。小学生のとき古新聞紙にオンネヌプリをスケッチしはじめた。青いクレヨンばかり使うので普段でも私の手はうす青く汚れていた。私は険しい稜線や五月の残雪を念入りに描いた。やがて目の見たものを手がなぞる乖離に苛立つ感情がおこった。窓外の風景に一人の少女が侵入してきた。彼女は毎朝すぐ下の道を学校に通っていた。私は窓に額を押しつけ板塀の隙間からそれを観察するようになった。どう言ったらいいのだろう。その少女には何かが決定的に欠けているために生じる吸引力のようなものがあった。それは何か。私だけにはそれがわかった。中学生のとき千枚の山の絵と同じ数の少女のスケッチを燃やした。外形を執拗になぞることで
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