スケッチ/みつべえ
とで対象に欠けているものを確信したのだ。私は彼女を待ち伏せし偶然をよそおって話しかけるようになった。雨の日に相合い傘をして「少年と少女はおない歳だった」ではじまる物語のプロセスをゆっくりとクリアした。同じ高校に入学したし同じ柄のセーターも着た。交換日記もやったし、ときどき弁当もつくってもらった。手も握ったし肩も抱いた。そのうち二人だけでバスに乗り、隣り町のホテルで情事をかさねるようになった。楽しかった、楽しかった。そして私にも彼女にもわかっていた。これはいつか終わるのだと。破局の予兆にふるえてこそ幸福な瞬間というものがある。だから、いまが最高さ、と私たちは思っていた。彼女が愛読したアルベール・カミ
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