乞食の話/プル式
 
たそれは
何処にも見つからなかった

翌日から彼は
百円ショップから食器屋まで
彼の知る限りの
スプーンを売っている店を回った
しかしそこに在るのは
ピカピカと光り
きちんと重なる
美しいティースプーンだった
喫茶店のティースプーンも見て見たが
どれも男のそれでは無く
皿にかちゃりと音を立てた
見知らぬ人々の思いを混ぜ続けたそれは
男には少し重たい気がした

何も手に付かなくなった彼は仕事を辞めた
もう一度部屋の全てを探した後
僅かな退職金を注ぎ込み
あらゆるスプーンを集めた
しかし幾ら集めようとも
満たされる事は無く
虚しさばかりが積もって行った

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