乞食の話/プル式
そうして気が付くと男は
一部の間でコレクターとして有名になっていた
しかし男はそんな気は無く
売ってくれと言う者や
譲ってくれと言う者には
惜しみ無く売り
迷い無く譲った
そうして代わりにスプーンを手に入れた
ある日彼の古いアルバムから
スプーンが2本
しおりの様に挟まっているのが見つかった
何故そこに挟んだのか彼は思い出せなかった
男はその背をすっと撫でると
並べられたスプーンの1番端にそっと置いた
彼の集めた中で1番安っぽいそれは
もうカチカチと音を鳴らす事は無かった
それからどうしたのかを
私は知らない
最後に男を見たのはいつの事だろうか
私は小さな町でその男にスプーンを売ったのだ
私が乞食になる
少し
前の事だ
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