血/アンテ
 
見えないドアを開ける
中に足を踏み入れると
空気が重くなる
靴を脱いで
台所を通り抜けて
奥の部屋
暗やみなのに
様子がすべて見てとれる
物が極端にすくない
カーテンが窓をさえぎっている
テーブルの向こう
だれかが倒れている
だらしなく伸びた手が
転がったナイフが
床に広がった血が
土気色の表情が
リエちゃん
死なないで
手のひらで頬を包む
何度も名前を呼ぶ
何度もくり返し呼びつづける
声が
なんて遠い
あたしの手が
リエちゃんの肌と同化する
頬のなかに
ゆっくりと指がもぐり込んでいく
重なって
ひとつに

かちっ

空地の片隅

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