ひとよ/ヴィリウ
奴は俯いて云つた。
惚れた女が出来たと。
女が子を孕んだと。
其れ以上は云はずとも、何を欲してゐるのかは、痛い程好く判つた。
なしを、付けて遣らう。
掛けた答ゑで、奴に血の気が戻つた。
ひらひら、ひらひらと夜の花が舞ふ。
おれと、奴との境に。
御前はまう、忘れてゐるだらう?
ひとよ、
たつた一夜咲いた、あの甘い花を。
はらはら、はらはらと、
此の胸で蜜を零し続ける、あの花を。
此の街を出やうと思ふ。
女と子と、何処か遠くで新しく、
生きてみやうと。
此の先を語る目に、何か光るやうなものを見て、此れはまう駄目なのだなと悟つた。
仕方がねェさ、
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