白熱/佐々宝砂
 
 俺は泣きながらねむった 泣きながら眠って夢をみた 夢のなか 不在の騎士が不在の腕で俺を抱き上げた 俺は不在の騎士にキスしたかった 愛していると告げたかった 俺は不在の騎士の鉄製の面覆いに指をかけた 面覆いを持ち上げようとすると 不在の騎士がいいのかと訊ねた 俺はいいんだと答えた 俺の指は確かに面覆いをあげた 夢の空気が白くヒートした しかし俺はそのあとのことを知らない わからない わからないんだ でも俺がこんなになったのは それからだ それからなんだよ


5.

海に顔をつけることができるようになったのは いくつのことだったろう 海辺の街で俺は生まれたが あの海はヘドロで黒かった
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