白熱/佐々宝砂
はなかったが 「俺」という物言いだけはいやに気に入っていたものだ いや祖母は粗野な女ではなかった 俺が繊細な女であるのと同程度には繊細な女だったよ 全くあんたの想像力ときたら最低サイアクに俗だね もちろんあんたはそれを自覚しているのだろうけど しかしそんなことどうでもいいんだ 俺は洋子のことを話したいんだ とにかく俺は洋子が好きだった 洋子は髪が長くて小柄で痩せていて眼鏡をかけていてそばかすがあって ひどく恐がりで そのくせコックリさんに凝っていたりした 洋子は同じ学校の野球部のピッチャーに惚れていた そんなふうに一番目立つやつに惚れる凡庸な女子中学生 運動ができるわけでも勉強ができるわけでもない
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