対岸/こしごえ
 



   鉄(くろがね)の背のように
   陽を照り返す
さざなみの群生するこちら側で
砂に潜っている
   貝の喘ぎは
   打ちよせる海水に
くりかえし濡れる
しろく寡黙な素足にふまれ
   飢えた白日夢
   青やかな空へ、飛び散っちまった。

ヒグラシが鳴いている
鬱蒼とした静けさで
爪先がじんわりとしびれる
いまは、帰れない
かつての密生した遠い空。

空耳かしら

対岸に立っていた
去ってしまったひとの名を呼びましたか
わたしの知らない
虹の頸筋はほそく傾いて
水晶するあぶくを連れた魚へ
あいさつ
をしている あぁあわあわ
[次のページ]
戻る   Point(10)