対岸/
こしごえ
あわと
透き通っていく対岸。
雷雨のまえのにおいは
素肌に重く
ふと
視線を上げると
足跡が宙で
かなかなかな と繁っている
河は音も無く流れつづけ……。
上流の
晩夏のキチンの流しでは
老人の後ろ姿が
思い出色に熟して
ふくらみ切った赤茄子を食している
人知れず
青鱗(せいりん)の雲が、ひしめきあい
水平線上で
ほんの少しの雨になっても
あのひとと同じ海に住めるとは
限らないのだった
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