美しき祖母よ/黒猫館館長
 


しかしその眼はひどくおだやかな、優しい小動物のようであった。
この黒々とした眼は一体何を見てきたのだろうか。
晩年の祖母は厳として語らなかったが、わたしは知っている。

祖母は戦前の旧制女学校で、当時、物理学の教師をしていた祖父と熱烈な大恋愛の末に結婚していること。
戦時中は満州にわたって、侵攻してくるソ連軍から逃げまとって死線の中を這いずりまわったこと。
そして戦後は物資の不足している極貧のなかで女手ひとつで母とその兄弟3人を見事に育て上げたこと。

こんなにも美しい女性を神よ。
神よ。
おまえは連れ去ろうとしているのか。

はっきり言おう。
神とやら。
おまえ
[次のページ]
戻る   Point(0)