美しき祖母よ/黒猫館館長
まえは「残酷」だ。
わたしがもの思いに耽っているその時、奇跡が起こった。
祖母が片手を伸ばし始めたのだ。
もうなにも言えない口をパクパクと開かせながら。
わたしはただ涙を流した。
そしてただ祖母の手を握った。
いつまでも。
いつまでも。
祖母はもう長くないだろう。
しかしわたしは信じている。
祖母は人間として生まれ、人間として生き、人間として死ぬだろう。
祖母は最後の最後まで人間の尊厳を失わなかったと。
絶望という陥穽に決して落ち込まずに最後まで希望を失わずに生きたことを。
これは、家族の誰もが信じなくても、祖母とわたしだけが知っている美しい黙契なのだ。
さらば、わが祖母。
・・・・・病院から自宅へ帰る途中に見た、夕日に向かって自転車をこぐ女子高校生がなぜかやたらにまぶしく見えた。
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