暁天/榊 慧
その時の感情は、諦めとも憂鬱ともつかない、郷愁にも良く似た、感情だった。
僕の視線が宙を彷徨い、何処からか飛んできたのか、花びらが横切る。
踵を返すと、また幾枚かの花びらが前を横切る。
けぶる花弁の雨が、ひらひらと舞うのを、僕は容赦なく、踏みつけていた。
あの時の自分はおそらく、只力が無いだけではなく、無知であったのだろう。
故に何の抵抗もせず、出来ず、処理する力も持たず、只、真正面から馬鹿正直に受けていた。
知られたくなかった。
見られたくなかった。
自分の、浅ましい姿など。
ふいに視界に入った大量の水に、気付けば足を向けていた。
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