母の上空/佐藤清児
 
何処までも続く田んぼ道を
傘を差しながら歩いていた
泥濘に足を捕られ
踏み込んだ足音に
ため息が一つ、呼応する
辺りはすっかり暗くなった

バスの停留所が見えるまで
ひたすら途方も無い一本道を歩き続けた
停留所の頼りない灯りと共に母の影が見えた時
漠然と覆っていた一抹の不安が一掃され
いつの間にか笑顔で走り出していた
三年ぶりに、帰ってきてくれたのだ



母は雨女だという
昔、父が教えてくれた
雨女は妖怪だいう
父は酒を飲みながら少し笑った
そんなことは絶対に信じなかったが
本当は少しだけ怖くなってしまった
家から居なくなってしまった筈の母が

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