下宿の上階。/ヴィリウ
う云つた。
流石に男を買ふ趣味は無かつたやうだね。
一寸掠れた声は男のものだつた。
あンたが直ぐ家に上げて呉れたもんだから、慣れてゐるのかと思つちまつたんだよ。悪かつたね、兄さん。
よくよく見れば、喉元が隆起してゐた。
男なのか。
搾り出すやうに云へば、さも愉快と弾けた笑ひ声。
兄さん、あのひとはおれの兄貴でね、
丸の内のお堅い勤め人さ。
うん?さう、御役人さ。
弟がこんな暮らしをしてるのが、相当腹に据え兼ねるらしい。今日も仕立ての背広を持つて来たんだよ。御前も真つ当に働けつてさ。
マァ、おれには関係無いやね、妾腹の子だからね、
さう云つたら此処
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