下宿の上階。/ヴィリウ
 
此処にほら、好いの入れて行きやあがつた。
 でもサ殴られた甲斐があつたよ、
 兄さんと御近づきに成れたんだからね。万事塞翁が馬、て事さね。
 ねえ、兄さん、
 今すぐ放り出したりしないだらう?

 上階の女郎は陰間だつたらしい。
 だうりで、男と同じ下宿等に住んでゐる訳だ。
 今日も開け放した窓から上体を投げ出し、物憂く煙管を吹き上げてゐる。
 ちらと目線を呉れてやれば、朝日を背に強烈な流し目。
 紅を落とす前の唇が、くいと上がつて笑む。
 行つてらつしやい、兄さん。
 声無く口が動いて、ひらりと手が舞ふ。
 
 行つて来る。
 上階の陰間とは深い仲に成る気は無い。
 無いが、
 このやうな遣り取りが続いてゐる。

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