下宿の上階。/ヴィリウ
 
黄昏も青黒く沈む頃、女郎は未だ下宿に居た。だう云ふ訳か、おれの戸の前に座り込んでゐた。
 もし、おぢゃうさん。
 声を掛けたが返事が無い。
 お仕事は宜しいんで?
 肩を揺すつたが身じろぎもしない。
 兎に角中へ這入りなさい。
 やうやう立たせて戸を開けた。
 
 女郎は左の頬を赤くしてゐた。
 手拭ひを濡らして、其の頬に押し当てた。
 僅かに彼女は上向き、手拭ひを当てたおれの右手に、自分の左手を重ねた。其のまゝ右手でおれの首の付け根を摑むと、接吻した。
 軽く音を立てておれの口を吸うと、に、と笑つた。
 おやおや兄さん随分初心だね。
 硬直したおれにさう云
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