Dont't stop the rain./汐
僕が東京でフリーライターを始めてから、もう五年に為る。
大学卒業後、他に遣る事もなく小規模の出版会社に就職した僕は、希薄な人間関係に厭気が差したからという極めて身勝手な理由で、一ヶ月のサラリーマン生活に易々と幕を閉じた。
しかし、初めて手にした真白な退職届けに「僕は、夢を追うために、辞職します」と赤のサインペンで甚だしく綴ったのは、強ち戯言では無く、気の弱い僕なりの震える決意表明だった。働き蟻として社会に貢献為て人生を終える位ならば、蟋蟀として路上で愛用のギターを抱えて凍死したい。僕の夢は子供の頃から他人とは違う波乱の人生を生きる事に尽きた。しかし矢張り夢は夢で、僕は昔から、平凡な癖
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