夏の終わり/渦巻二三五
 
油蝉の断末魔に
ふりむくと
老婆がひとり
まどろんでいた
石段にひろげられた紙の上に
硬貨をひとつ
投げてやった
老婆は顔を上げると
おれの目を
じっと見つめた

あくる日
老女はおれを待っていた
硬貨をふたつ
投げてやった
老女はおれの耳をつかみ
乾いた唇でささやいた

つぎの日
女はおれを見上げて
ほほえんだ
硬貨をみっつ
握らせてやった
女はおれの頬にふれ
かすかな声でつぶやいた

四日目
彼女とおれは言葉を交わした
紙幣を一枚くれてやった
彼女は
石段にひろげていた紙を
折りたたんで
おれの内ポケットに
すべり込ませた

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