夏の終わり/渦巻二三五
 


五日目
女はどこにもいなかった
さがしてもさがしても
どこにもいなかった
わたされた手紙には
別れの言葉がつづられていた
おれは途方にくれて
石段に腰かけていた

きょうもまた
おれは石段に腰かけていた
どこへ行ってしまったのか
もう二度と逢えないのか
目を閉じると
せつない気持ちがこみ上げてきた

ある日
ひろげたままの手紙の上に
硬貨がひとつ
投げられた
顔を上げると
若い女が立っていた

あくる日
おれは女を待っていた
女が硬貨を投げると
おれは女の耳に
しわがれ声で
ささやいた
「あんたはきっと恋をする」

油蝉の断末魔が
聞こえていた





          
初出:一九九六年 八月一日 @nifty 詩のフォーラム
         
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