秋雨の土曜日、僕は本を捨て部屋を出た。/汐
り、それ以来、若い恋人たちの為に歌われたこのベタなラヴソングを時々こうして聴くように為った。
白紙の原稿の前で行き詰まってペンを遊ばせて居る時、音の連鎖に不意に蘇る幼少期の指先。
骨張った指に馴染んだ事務用のボールペンを、置き去りにした儘のクレヨンに持ち替えて、僕は大きく円を描くように、活字を紡いでゆく。
*
机に向かってからどれ程経っただろうか。
凝った肩に猫を乗せると、僕は不意に思い立って、降り仕切る秋雨が窓を叩く中、見覚えの有り過ぎる電話番号に電話を掛けた。
受話器にイヤホンを宛てると、「あぁもしかしなくても御前か。此の歌、懐かしいな、確か御前の誕生日
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