地図/ワタナベ
生活する人たちの息遣いが聞こえてくる
それらに囲まれたぼくの家だけがなんのメモもされずに、地図からとりのこされている
書くことはコップから溢れるほどある
しかし、いざ手で掬おうとすると、指と指の間からみるみるうちにこぼれてしまう
こぼれた欠片を拾い集め、ジグソーパズルのようにひとつひとつ当てはめていく
すると、ぼくの家のピースだけがどうしても見当たらないのだ
そこにこそ、ぼくの長い物語が書かれていたはずなのに
欠落した部分の周りを指でなぞってみる
ジャズバー、カフェ、中学校、コンビニ、スーパー、薬局
それぞれに触れるたびに、指先にかすかに電流がはしる
ぼくがメモしたよりも、
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