「 マグロ退治の午後。 」/PULL.
ち上がるのは、久しぶりだった。
軽い立ちくらみもそこそこに、キッチンに向かう。
シンク下の戸棚を開け、ひとり暮らしをはじめた時に買った包丁セットから、刺身包丁を取り出した。これまであまり役立つことのなかったこの包丁だが、配達員を装ったあやしいマグロ男と対するのなら、刺身包丁として本望だろう。
あたしは細長いそれを腰だめにして、玄関に向かう。
ピンポピンポピンポ、ピポ、ピポピポピポ、ピィーンポォーーーン。ドンドンドンドン。
「マグロですよーマグロですよー。これを食べたらあなたも本物のマグロのような女になれますよー。脂がたっぷりですよー。」
マグロ男はいよいよ激しさを増し、あた
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