「 マグロ退治の午後。 」/PULL.
 
父は満足げに頷き、これがマグロだ。これが本物のマグロだ。早くおまえもこのマグロのように脂の乗った本物の女になれと、言うのだった。
 あたしは、口の中を犯すマグロと戦いながら、こんな脂っこい女にはなりたくないと、切に思った。
 父と、寿司を食べたのは、あれが最後だった。回る寿司の一週間後、父は会社の同僚の女と、駆け落ちした。口さがない親戚の話では、マグロの水揚げされる漁港のある街に、今もいるらしい。
 
 だからあたしは、マグロが嫌いなのだ。

 感傷に浸っていると、涙が出た。あたしは布団に顔を擦りつけ、涙を拭った。
 ビンポーンビンポーン、ピポ、ピンポーン。
 配達員は飽きることも
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