「 マグロ退治の午後。 」/PULL.
口に入れた。
あたしは父が「トロ」を口に入れるのを確認して、父に続いた。一口噛むと、あの粘っこい魚臭い脂が、口の中に溶けだしてきた。ねちょねちょとしつこく、舌に、歯に、口全体に絡まる、生臭い、食感……。
一口で、あたしは、マグロが嫌いになった。
だがそれを、あたしの隣で幸せそうに食べている父に、言うわけにはいかなかった。こんなに幸せそうな父は、家にはいなかった。はじめてだった。あたしはお腹の底からこみ上げてくる酢飯よりもすっぱい「もの」を堪えながら、父に言った。
おいしいね。とってもおいしいね。こんなにおいしいもの、はじめてたべたよ。おとうさん、ありがとう。
何も知らぬ父は
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