「 マグロ退治の午後。 」/PULL.
そらし、子供にはまだ早いと言うのだった。
父は、マグロをなかなか取らなかった。ぐるぐると、目の前を何度も通りすぎるマグロを巧みに避け、海栗やイクラや蛸を取った。その間も、父の寿司のうんちくは続き、あたしは普段とは違う雄弁な父の姿に驚きつつも、うんうんと頷いてそれを聞き、父は話し続け、うんちくを続けた。
小一時間も続いたうんちくが、ようやく終わりに差し掛かった頃。父は、マグロを取った。
これは「トロ」というのだと、父はまるでマグロを捕った漁師のように、誇らしげに言う。そして「中トロ」と「大トロ」の違いを、差別的に表現し、その「トロ」をしげしげと眺め、もう一度差別的に表現した後、それを口に
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