博士たちの受難/池中茉莉花
2人だけ。中国人の王さんは滅多に来ないし、となりの永原さんは「休職中」。だけど、本当のところは実家を継ぐことに決めたのだとか。風子と順子さんだけが毎日ここで仕事をしている。普段の話し相手は順子さんだけ。ここでは人間関係で苦労することはないけれど、人間関係がないのが悩みになってしまうのだ。確かに、教授に業績を盗まれたなんていうトラブルはよく聞くが、幸い風子にはそんな経験はない。
風子はアルファベットと数字にまみれたコピーの山にうずもれながら、その麓でカタカタWordに文章を打ち込む。「新しいもの(something new)」を産みだそうと、頭の中はそれいっぱい。睡魔は確実に襲ってくるのに一週間、
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