【小説】月の埋火/mizu K
呼んでいるのか。
どどどう、どどどう。
耳をすます。囲炉裏のむこうで横になっているはずの祖母
の気配はわからない。ぐっすり眠っているのだろうか。眠り
は深いのだろうか、浅いのだろうか。もう何年、祖母はこの
潮鳴りをひとりで聞いてきたのか。
夜、囲炉裏端で月の話をした。
こちらにきてからずっと、夕刻に浜におりていくので、尋
ねられたことがあった。
月が出るところをみたいのです。
そう言うと、祖母はこころなし笑ったようだった。
食事時と重なるのでここのところ月を見にいっていない。
大潮も過ぎて数日もしたころ、夕餉の後に、茶をすすりなが
ら月の話をした。
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