青いテント/長谷伸太
 
れで喜んでもらえたらどんなに良いだろうと思ったのでした。渡す機会なんか無い事に気がついたのは摘んだ後でした。
 お寺の石段に腰を下ろして、私は花を見つめました。少し元気が無くなってきたように見えました。申し訳ない気がしてきました。花はやっぱり綺麗な薄桃色をしていて、ちょっと微笑んでいるように見えました。だんだん胸が詰まってくるような気がして、ごめんね、と言ってみました。別にいいの、なんでもない事よ、と花は言いました。いよいよ胸のつっかえがひどくなっていくと同時にとても良い香りがしました。その香りは景色の色を塗り替えました。空まで花畑になったように一面薄桃色になって、昼間のように明るいのに星がたく
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