回想バス/小川 葉
 
ている猫を
飼い主が笑顔でなでているその背景の
向こう側のずっとずっとはるか彼方
さみしい顔で歩いているのが彼だった

もうコマーシャルには出ないし
「いのちの相談センター」もやめちゃうかも
彼はさみしい笑いをうかべて
静かにそう言った
彼と会ったのはそれが最後だった

回想バスが町を一周すると
「いのちの相談センター前」には
もう行列はなくなっていた
たぶん彼がやめてしまったせいだろう
ほんとうは彼はそこでとても人気者だったのだ
そのことを彼自身知っていて
それでも満足できずにやめてしまったのだった

その後彼はどこへ行ったのか
ほんとうは知っていたけれど
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