回想バス/小川 葉
れども
私は「フラノ」に行って
ボンゴレを注文するようなことはしなかった
あるいはジンギスカンを注文してたら
どこからともなく彼は
照れながらあらわれたかもしれないけれど
それも結局しなかった
回想バスがもうすぐ四十周目にさしかかる頃
私がさがしていた家が窓の外に見えてきた
降ります
運転士にそう言ってしまえば
もう二度とバスに乗ることはない
家には誰もいなかった
けれどもたしかにそこには
父と母が住んでいることを私は感じていた
それはとても近い未来のことであり
懐かしい記憶のようでもあり
家の庭の犬小屋では
ピレネー犬が飼われていることも
とてもよく知っていた
はやく彼と「フラノ」に行って
一緒にジンギスカンを食べたかったけれども
この世界では犬とレストランに行くことは
とても難しかった
だから私は彼にいのちの相談をすることにした
ときにはあのコマーシャル収録時の
失敗談をまじえながら
とても上手におもしろおかしく
いのちの尊さについて
彼はおしえてくれたものだった
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