五月待つ/岡村明子
るような潮のにおいはなく
たださわやかに吹きすぎる風が
私たちの行く末を掃いている
海岸に続く足跡の長さが
逡巡の時間だった
そのあと彼が何と言ったのか
とにかく確かめ合ったことだけは間違いない
はじまりが海だったから
泳がない海に何度も行った
学校を抜け出して
砂浜にわずかにある芝に足を投げ出し
彼に膝枕し
寝ている頭をなでながら
波に遊ぶ光を日がな一日眺めることもあった
海へ来ると時間を忘れ
潮のにおいは私たちを現実から遠ざけた
別れが近づいてきた頃
彼からはいいにおいがするようになった
高校生には似合わないブランド物の香水を
いつのまにか
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