五月待つ/岡村明子
にかつけるようになっていた
冬のアスファルトの路上で
最後の一言を切り出したとき
波の音も
潮風も
光も
なく
切るように冷たい風が
お互いのコートを固く閉ざさせ
言葉を失わせた
けど
それから何年しても
街中で彼と同じ香水をつけている人とすれちがうたび
どうしてか
由比ガ浜の海を思い出すのだった
五月待つ
海岸で
今はひとり
足元を波打ち際に濡らし
指の間からさらわれていく砂を眺める
強くなりはじめた太陽の光が
穏やかな波にくだけ
空中に発散している
もうすぐ、夏が来る
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