五月待つ/岡村明子
恋を思い出す
夏になれば人であふれ帰る由比ガ浜も
今はまだ朝に渡る風を感じながら
ゆっくりと歩くことができる
長く伸びる
二つの足跡
高校の制服を着た二人は
鎌倉の遠足を途中で抜け出してきたのだ
大仏を見るよりも鶴岡八幡宮へ行くよりも何よりも
どうしても私に言うことがあるので
江ノ電の由比ヶ浜駅で待っていてほしいと言われるまま
私は誰もいない駅の改札で待ちぼうけていた
アスファルトの照り返しがまぶしくて
遅れてやってきた男の子の顔が見られない
やがて海岸を歩き出す
言葉を探してとまどう私たちの空気を
五月の光と風と波の音が満たす
真夏の
むせかえるよ
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