MERKAVA/10010
しよう。「君」というのは呼びかけに使う言葉だから。わたしが憶えたのは君の記憶だ。だが、わたしは君を憶えていない。もはや名前しか残されていない。名前と、それが指し示すものとの対応を確かめる術は花園中に散逸してしまった。花粉となって。もはや名前しか残されていない。
わたしは君を憶えていないが、おそらくいまでも君の名を唄っている。おそらく。そう、それはどこかおそろしくて、それでも口にするのだ。君の、名を。憶えること、想うこと、思い出すこと。西方の賢者が言うには、われらの現世での知識はすべて前世に於いて魂が既に識っているイデアを「想起(アナムネーシス)」しているに過ぎないという。君の名を識り、憶え
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