「だらしないイカ」/ソティロ
 
うかあ。じゃあありがとう言うておいしく食べたらええな」
 と彼女は言った。真面目な顔して笑っていた。そんなところが好きだった。



 イカの解体が始まった。マグロを解体するような大きな包丁(それはイカに較べればあまりに小さかった)を抱えて鉢巻を締めた屈強な男がイカに乗った。みんな一斉に静まりかえり、固唾を呑んでその姿を見つめていた。まるで何かの儀式のようだった。
 イカは辛うじて生きていた。だらしなくのびたイカの頂点に、男は包丁を突き刺そうとした。きっとぼくらはみんな断末魔を想っていた。勢いよく包丁の先端がイカの皮膚を突き破ったのを契機に、幾人もの女がきゃあと悲鳴を上げ顔を覆った。子
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