「だらしないイカ」/ソティロ
!」
という怒鳴り声がしてその少年は拳骨を喰らった。多分親なのだろう。ひさしぶりに拳骨を見た。でも火花も飛び出なかったし、少年の頭に大きなたんこぶが膨れ出ることもなかった。少年は頭を抑えながら人ごみのなかに消えた。
もうテレビ局も来ていた。はじめは肩でかつぐ黒いビデオ・カメラ一台とカメラマン一人だけだったが、大型のバンが堤防に停まり、次第に、レポーターだの音声だのと仰々しくなった。その頃には浜辺は大賑わいになっていた。
そこここでだらしないイカについての感想が聞こえた。ある若者たちはイカを押し戻して海に帰してやろうと数人がかりで一生懸命押していたが、イカは重く、砂の抵抗もあ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(4)