カフェにて/渡邉建志
。「まつこさんちょうちょかんでる」と僕は無力に言った。さなえさんは「それきれいなちょうちょ?」と言った。「うん、きれい」と僕は言った。さなえさんもお兄さんも仕事で忙しくしていて、僕は彼らの助けを待ちながら呆然とし、見ていられないので本に目を落としたけれど、やっぱり気になるので見ると、ちょうちょの羽はぼろぼろになっていて、もうほとんど動けなくなっていた。松子さんは興味を失い始めていた。さすがにうごけないちょうちょを店の床におとしておくのもどうかと思ったので、松子さんにこらちょっと、と言ってどいてもらい、もう動かない蝶の羽をつまんで、公園の植え込みまで持っていき、その陰にそっと置いた。猫には悪気なんて
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