遺書/Utakata
は本当にいろいろなものを忘れてしまうんだ。もしかしたら僕が思っている以上にそのいろいろなものの数は多いのかもしれない、忘れてしまったことさえも忘れてしまって、だとしたらもう、そういうものは初めから僕の記憶の中に無かったとしても同じくなるんだろうね、たぶん、きっと。きっとこんな考えが思いつくのも、こんな時間に雨を眺めているせいなんだと思う。午前五時なのに、まるで真夜中みたいに暗い空だよ。午前五時の雨は、何となく小学校の音楽室のピアノに似ていると思うんだ。いつからなのか解らないくらい昔から音楽室に置いてある、黒くて無機質で、そこにあると安心感があるのだけれど、夜にそれが一つだけ部屋の中に残っているのを
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