岡部淳太郎「迷子 その他の道」に寄せて/ふるる
 
分は少年と花というのどかな風景である。全体を通して、非常に硬質な言葉で編まれた詩編の中で、この絵画の部分はやわらかさと明るさを持って読者に迫ってくる。さらに、「地下室があるのだろうか」といぶかる老人に対し、「この城には、地下室がありますよ。」と呼びかける旅人の締めくくり。この言葉も、不思議な明るさに満ちている。「地下室」が何であるかは分からない。穏やかな眠りを誘う静かな場所か、芳醇なワインが詰まっている蔵か、あるいは大切な者が眠る美しい霊廟か、それ以外の何かか。しかし重要なのは「地下室」が何であるかではなく、老人がそれがあるかどうか知らない、ということだろう。それはあたかも、世界に対して、自分自身
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