掌編小説『しゃしんの女』 〜下〜/朝原 凪人
ちらを窺った。今ならその顔の全てを見ることが出来た。相変わらず表情はないが、厚く魅惑的な唇、通った鼻筋、二十代と見紛う肌の張りと美貌。それがその女の顔だった。
「いえ私には」
「そう。残念ですわ」
まったく残念ではなさそうに女は言うと、窓の外。赤のバラ園を見た。
「でもそれからですのよ? あそこだけが雪が積もることも、土が凍ることもなく、そして、この冬の地でバラが花を咲かすようになったのは」
女の言葉に思考が停止する。雪が積もることもなく……?
「どうかされました? 貴方まさかあそこは従者か何かが手入れをしているとでも思ってらっしゃったの?」
図星を
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