ふたつの曳航/前田ふむふむ
色が流れるように消えて、碧い伽藍をひろげる。
ひかりは丁寧に、わたしに影を付けるが、
もう、あの日のひかりではないのだ。
影が、わたしを引き摺っている。
2
橋の上から、川面をみると、褐色の線のうえで、
小舟が縛られている。
線は両岸の黒色の土手に飲まれて、
戸惑う鴨の親子が、揺れる水草を裂いて浮ぶ。
水草が、――
うな垂れた人影に見える。
「あれは、みずではない。」
鼓動が、僅かに足のつま先から伝わってくる気がする。
耳で聴いた、赤く生まれた血の吹き出る空を、
わたしは、擦り切れた指先で、いまも覚えている。
あつく燃えた
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