ふたつの曳航/前田ふむふむ
えたあなたは、乾いた声をあげて走る、
沃野が着る、うすきみどりに靡いて。
あの青々とした草ぶかい広場には、
高踏な書架の炎が溢れていた。
あした、晴れていたら、夕暮れが毎日通る庭園に、
碧いみずおとを、咲かせたい。
川のなかの鮮やかだったひかりの顔にも。
橋を左に曲がれば、見慣れた灯りが、
わたしを迎えてくれる。
わたしには、陽だまりのような小さな帰る場所があるのだ。
陽だまりに向けて、橋の下に眠る、
捨てられた句読点の群が、
わたしの背中を押す。
橋の透明な欄干が砕けて。
冷たい水滴が、わたしの顔を打ち、
寒々とした肉欲が、瞳孔の水底を流れていく。
窓のむこうの流れは、――
夜明けの境界線がみえる。
戻る 編 削 Point(27)