ふたつの曳航/前田ふむふむ
ない。
茹だるような夏、汗で絡まる、
あなたの、何人ものあなたの、
細い腕を放してきた坂で、
打ち水をするあなたが、
打ち水を止めないあなたが、
あの痛みのなかにいるのかもしれない。
ふいに、ひかりに顔を向けると、
眼が焼けるようにとけて、
眩しさの手は、沈黙の襞で叫んでいる。
わたしは、ひかりを背にして、家族写真を撮っている。
そのとき、わたしは、もう夕暮れの街並みの雑踏を
歩いているのだ。
・・・・・・
雨の日に、傘を差して歩くみずたまりで、
ふたたび、あのひかりを浴びたいと、驟雨の耳元で
つぶやく。
時は、落ち着いた面持ちで訪れ、
灰色が
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